2014.11.13

多くの作品に触れていくたび、人生は豊かになる
大沢伸一/音楽家、DJ、プロデューサー、選曲家

映画や音楽から受けた影響を心に留めておく

― 一番最初の記憶として残っている映画体験は何ですか?

大沢:小さい時に観に行っていたアニメやゴジラを除けば、おばあちゃんと観に行った『野生の証明』がとても記憶に残っていますね。

― おばあちゃんと観に行くことが多かったんですか?

大沢:多かったですね。あとは親戚のお兄ちゃんとブルース・リーが出ている映画を観に行ったり。

― あの頃って、映画の存在感が大きかったですよね。

大沢:映画を観るとすれば、映画館に行くしか選択肢がなかったじゃないですか。今はDVDとかがあるから家でも観られるけど。そう考えると今はある意味贅沢ですよね。ただボクは映画って本来、映画館で観るべきだと思います。

― その頃って、どういう少年だったんですか?

大沢:うーん、割とお調子者な反面、内向的な部分が結構あったんで、映画とか音楽から受けた影響をすぐに忘れずに、心に留めておくほうだったと思います。

― 作品の世界観とかが好きだったんですかね?

大沢:そこまで難しいことを考えていたとは思わないんですけど、ストーリーそのもよりも映画が持っているムードとかが好きだったんでしょうね。例えば、テレビでは『ジャイアントロボ』(※特撮テレビ番組)が好きだったんですけど、ストーリーは全く思い出せないんですよ。でもジャイアントロボの色と映像全体のトーンとかは全部覚えているんです。空の色とか、そういうイメージは強く印象に残っています。

メインストリームの人達が観るモノ、聴くモノに対して、自分は全部逆をいっていた

― 思春期の頃はどんな感じだったんですか?

大沢:思春期は何かとカッコつけたものが好きでした。5歳ぐらい年上の連中とツルんで、パンクやニューウェイブといったバンドをやっていた経緯もあって、そういう人たちが好んで観るような映画を自分も観ていました。自分のリアリティとしては全然無いものなんだけど、背伸びをして。彼らですら背伸びをしてゴダールとかを観に行っているのに、自分も後から観に行って全然ピンとこなかったりとか(笑)。ただ、その時に影響を受けたものは大きいです。『気狂いピエロ』を観て、一番最初に乗る車はアルファロメオって決めて、本当に買ったりもしましたしね。安いボロボロのやつでしたけど(笑)。

― その頃は比較的にヨーロッパ映画が多かったんですか?

大沢:二十歳前後の頃って、“アメリカ=ダサい”“アメリカ嫌い”みたいに思っていて、絶対ヨーロッパの方がカッコいいという感じでしたから、無理してでもフェリーニやゴダールを観たり、アメリカでもカルトっぽい作品を観たりしていました。あとは、フィルムノワールにハマったり。でも結局、20代中盤位になってくるとレンタルビデオが普及しだしたこともあって、アメリカ映画をはじめ、随分いろいろな作品に触れるようになっていきました。

― では、段々とジャンルが広がっていったんですね?

大沢:そうですね。でも、10代前半の思春期の頃に洗礼を受けているのが、尖がったものとか世間的には小難しい作品だったりしたので、単純なラブストーリーとかにはあまり手を出さなかったですね。そういうのは深夜テレビで観ればいいやって感じで。だから劇場には『未来世紀ブラジル』や『裸のランチ』、『デリカテッセン』とかを観に行っていましたね。

― ミニシアター全盛期ですかね?

大沢:正にそうで、ミニシアター系のものをこぞって観に行っていました。

― 時代もバブルの後で、カウンターカルチャー的なものが結構出てきている感じでしたよね。

大沢:その頃の僕らは、メインストリームの人達が身に着けるモノ、観るモノ、聴くモノに対して、全部反対をやっていた感じすらありました。正にカウンターカルチャーで、そういったのが面白い時代だったんですよね。

― そういう映画体験は、当時の音楽活動にも影響を及ぼしていたんですか?

大沢:特にそこから音楽的な影響を受けたっていう記憶はないんですけど、映画音楽って特徴的なものが多いので、色んな作品に触れていたのは贅沢なことだったな、と今振り返って思います。

映画を観るという疑似体験をして、自分の肥やしにすればいい

― 最近は、映画の観方も変わってきていると思うんですが。

大沢:今は映画を選ぶのが難しいですね。日本に入ってきていない映画も多いと思いますし。80年代から90年代初頭の頃は、ミニシアターのクオリティの高いものが、ちゃんと僕らの目に届くところに告知がされていたんだと思うんです。でも今は、時間を見つけて自分から探しに行かないと出てこない。見つかったとしても、このご時世で時間を作って、わざわざ観に行こうとならなかったり。一方、80年代の頃に凄かった監督の新作を観に行って、外したりすると心が萎えるんですよね。

― 大沢さんにとって、一番印象に残っている映画体験は?

大沢:もともと2人以上で映画を観に行くことってほとんど無いんですけど、30代になってから、僕がまだ結婚している時、友人夫婦と4人で『ミリオンダラー・ベイビー』を観に行ったんですよ。その時、映画館に人が溢れていて、その場にいること自体に興奮したし、作品自体もすごい良くて。皆で号泣したのをよく覚えています。映画館が活気づいていて、映画自体も良作で映画らしく、それを来ている人たち皆で共有するという。そういう経験を久しくしていないから、もう1度、そういう時間を味わいたいなと思いますね。

― 体験自体もそうですが、作品も重みがありつつも、何か余韻を残していく感じですよね。

大沢:そうなんですよね、意外とそういう作品が少ないんですよ。どこかイビツに寄ってしまっている作品が多い気がするんですよね。そう考えると『ミリオンダラー・ベイビー』は良い映画でした。

― 良い映画体験をたくさん経験されていますよね。そういった良い映画体験をするために、何かアドバイスがあれば。

大沢:色んな種類の作品があると思いますが、肩肘はらずカジュアルに、気になった作品をどんどん観ていってほしいなと思います。そうして数多くの作品に触れていくと、人生が豊かになっていくことは間違いないと思うので、映画の世界に恐れずにドンドン入っていってほしいですね。

― 今はすごい情報量なので、良い作品でもスルーしちゃいがちですけど、キッカケとなるちょっとした入口さえあれば、色々な映画によって自分の中の世界をもっと広げていけると思うんですよね。

大沢:やっぱりハリウッドの功と罪ってあると思うんです。作品の内容がドンドン簡単で分かりやすくなっちゃったとか。そういうものばかりになってしまうのも、あまり良くないじゃないですか。たとえ分かりづらい作品でも敬遠せずに、“オシャレだから”とかいう理由でカッコつけて観ればいいんじゃないのって思いますよね。僕は映画って、映像も音楽も入っているし、一番優れた総合芸術だと思うんですよ。だから小難しい本を読むより、2時間で終わる映画を観て、疑似体験をして、自分の肥やしにすればいいと思います。

(終)

大沢伸一(音楽家、DJ、プロデューサー、選曲家)

'93年のデビュー以来、革新的な作品をリリースし続けている音楽家、プロデューサー、DJ、選曲家。海外レーベルから楽曲をコンスタントにリリースし、世界中のDJ/クリエイターからのコラボやリミックスのラブコールも多い。国内では主に作曲家、プロデューサーとして活躍。安室奈美恵、山下智久、AFTERSHCOOLなどにそれぞれの新境地となるようなプロデュース楽曲を提供している。また、トヨタやユニクロなど多数のCM音楽を手掛けるほか、ファッションブランドや店舗への音楽選曲や、代々木ビレッジのミュージックバーをプロデュースするなど音楽を主軸として多方面に活躍している。
www.shinichi-osawa.com/

大沢さん おススメの名作


  • 『勝手にしやがれ』

  • 『道』

  • 『愛より強く』

  • 『アモーレスペロス』

  • 『タクシードライバー』